相続税の基本。知っておきたい基礎控除や税務署への申告方法
相続税は、遺産を受け継ぐ際に必ず直面する問題です。遺産の額によっては相続税の負担も大きくなるため、どの遺産が相続税の対象となり、税額がいくらになるのかを把握しておくことは非常に大切です。また、相続税額を減額するための控除制度についても基本を抑えておき、税負担を少しでも抑えられるように準備しておきましょう。
ここでは、大切な資産を守るために知っておくべき相続税の基礎知識についてご紹介します。
相続税とは
相続税は、「被相続人=亡くなった親」などから、「法定相続人=子、孫(子が死亡している場合)など」または「指定相続人=遺言書で指定された相続人」などがお金や土地などの財産を受け継いだ場合に、その受け取った財産にかかる税金です。相続した財産が大きいほど相続税額は大きくなります。
相続税の課税対象となる財産とは?
相続財産には、プラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。相続税の課税対象となるのは、プラスの財産からマイナスの財産を引いた総額になります。
差し引かれるマイナスの財産
- 被相続人の借金
- 被相続人の未払いの税金や光熱費、医療費など
- 被相続人の葬儀費用
ポイントは、生前贈与を行っても、それが被相続人が亡くなる3年以内であれば、相続税の課税対象となってしまうこと。生前贈与は計画的に行うことが大切です。
課税対象とならない非課税財産
相続税がかからない財産を「非課税財産」といい、相続財産の総額から差し引くことができます。
主な非課税財産
①墓地や墓石、仏壇、神を祭る道具など ※換金性のある華美なものは除く
②国や地方公共団体などへ寄付した財産
③死亡退職金のうち非課税枠内の保険金
非課税財産がある場合の課税対象額は、次のような計算式で求められます。
相続財産 − 非課税財産 – 基礎控除額 = 課税対象額
基礎控除とは、相続税の減税制度の一つです。後述する「相続税の基礎控除」をご参照ください。
被相続人が海外にいる場合もしくは財産が海外にある場合
相続人の住所が日本の国内にあれば、相続財産がどこにあるかにかかわらず全ての財産に相続税が課されます。一方、国内に住所がない相続人は、相続した財産のうち、日本の国内にある財産だけに相続税がかかります。
ただし、次のようなケースは少し取扱いが異なります。
- 日本在住の在留資格者で、一定の条件を満たす場合は、日本の国内にある財産だけに相続税がかかります。
- 国外に住所を有している相続人が、国外の財産を相続したとしても、その人が日本国籍を有しており、一定の条件に合致する場合(相続人または被相続人が相続開始前10年以内に日本に住所を有していた場合など)は、相続税の納税が義務付けられます。
相続税の計算方法
相続税はまず相続税の総額から算出しますが、総額は下記①~③の順番で計算します。
①課税対象額の法定相続分を算出
②法定相続人ごとに、法定相続分に下記表の税率と控除額を用いて相続税を算出
相続税 =(遺産の総額 – 基礎控除額)× 法定相続分 × 相続税率 – 控除額
③各法定相続人の相続税を合計して、相続税の総額を算出
最終的には、相続人の相続財産取得割合で、相続税の総額を按分します。
また税率と控除額は、法定相続分の金額に応じて、下記のように定められています。
法定相続分の取得金額 | 相続税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超え | 55% | 7,200万円 |
相続税の基礎控除
前の項で記した通り、相続財産が増えるほど税負担は高くなります。特に、不動産などの現金ではない形で財産を相続すると、納税が相続人の生活に大きな負担を与えることになります。そこで、相続税には基礎控除という税負担を軽減する制度が設けられています。相続財産が一定額以内であれば相続税を納める必要も、申告を行う必要もありません。
相続財産の基礎控除額は法定相続人の数によって異なり、次の計算式で求めることができます。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続財産の金額が基礎控除額を超えない場合は、相続税はかかりません。
例)相続人が個人の妻と子2人の場合
法定相続人には誰を含める?計算式の注意点
注意したいのは、計算式に入る相続人は、民法で定められた「法定相続人」であるという点。ここには、遺言書で指定された「指定相続人」を含めることはできません。
一方、相続税を振り分ける際は遺贈を受けた人も含めることができ、取得割合に応じて平等に負担額を決めることができます。ただし、指定相続人には相続税が2割加算されるため、注意が必要。遺贈を行う場合は納税についても念頭に入れておくことが大切です。
また、次のように例外となるケースも念頭に置いておきましょう。
- 法定相続人が相続放棄をした場合は、遺産相続する権利は無くなりますが、基礎控除の計算式の人数に含めることができます。
- 法定相続人である子が死亡している場合は孫が「代襲相続人」となります。この場合も、法定相続人として基礎控除の計算に含めることができます。
- 養子縁組で法定相続人となった場合は、「実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人まで」を人数に含めます。
その他の特例や控除
基礎控除の他にも、過度な税負担によって相続人の生活を圧迫することがないよう、特有の特例や控除が設けられています。
小規模宅地等の特例
故人や、故人と生計を同じくする親族が住居・事業用に使っている宅地は、一定の要件を満たすことで相続税の計算時に評価額を最大60%減額できます。
配偶者の税額軽減
故人の配偶者は、法定相続分または1億6000万円以下の財産であれば相続税がかかりません。
贈与税額控除(暦年課税)
故人から相続開始前3年以内に財産の贈与を受けていた場合に、贈与税と相続税を二重に課されないように、支払った贈与税を相続税から控除する制度です。
相続時精算課税制度
生前贈与を受けた際に、贈与財産と相続財産の合計金額から相続税額を計算し、相続税として一括で納税する制度です。贈与時に2500万円の特別控除が受けられるなどのメリットがあります。詳しくは、「相続時精算課税制度」についての記事をご覧ください。
相続時生産課税贈与税が課せられている場合は、その税額は相続税額から控除されます。控除しきれない分は、税額は還付されます。
未成年控除
20歳未満の法定相続人は、相続税額から「10万円 ×(20歳 – 相続開始時の年齢)」が控除されます。
障害者控除
障害者である法定相続人は、相続税額から「10万円(特別障害者は20万円)×(85歳-相続開始時の年齢)」が控除されます。
相次相続控除
10年以内に2回以上の相続があった場合に、相続税を軽減する制度です。
相続税の申告
相続財産が「基礎控除額」を上回った場合、相続税の申告が必要になります。しかし税務署から税金の請求がくるわけではないため、相続人が自分で申告し、期限内に納税を行う必要があります。
相続税の申告と納税の期限は、相続の開始があった日の翌日から10ヵ月以内です。この期間内に法定相続人や課税対象財産の確定、相続税の計算、必要書類の準備など、やるべきことがたくさんあります。申告と納税は同日に行う必要はありませんが、期限内に終える必要があります。
納税方法
亡くなった方の最後の住所地を管轄する税務署に納税します。直接出向いて支払うこともできますし、金融機関の窓口でも支払うことができます。
申告期限内に遺産分割が終わらなかった場合は?
遺産分割が終わっていなくても、相続税の申告は必要です。相続税申告書に「申告期限後三年以内の分割見込書」を添付し、分割が終わっていない理由や、適用を希望する特例などを申告します。分割協議終了後、改めて相続税の申告をやり直すことで特例が適用され、払いすぎた相続税は還付されます。ただし期限を過ぎると適用できなくなる特例もあるため、期限内に分割を終わらせることがベストです。
相続税を期限内に申告・納税しなかった場合はどうなる?
相続税法第34条では「同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる」と定められています。つまり、相続税の納付義務は相続人全員の連帯責任であるということです。相続人のうち誰かが納税しなかった場合は、他の相続人が肩代わりをして納税しなければなりません。
では、もし期限内に申告と納税が終わらなかった場合や、本来の税額よりも少ない金額で申告した場合はどうなるのでしょうか。
申告期限を過ぎてから納税した場合
2ヶ月以上遅れた場合は14.6%の延滞税がかかります。遅れが2ヶ月以内の場合は、「7.3%」また「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い方の金額が延滞税として加算されます。
相続税申告の時効は5年
申告期限から原則として5年が経過すると、いわゆる「時効」が成立し、税務署は課税することができなくなります。しかし、税務調査に対して虚偽の回答をしたり、相続財産を隠したりして不正に納税を免れた場合、つまり脱税行為があった場合は、時効が7年に延長されます。
ということは、7年逃れられれば、相続税を払わなくてもいいということ?と思われるかもしれませんが、税務署は、過去の税務申告状況や不動産売買の履歴、保険金の受け取り履歴など、さまざまな情報を保有しています。そのため、相続税の納税が見込まれる人を把握しており、事前に申告の案内文を送付しています。
税務調査の対象になると、相続人への聞き取り調査のほか、銀行の預貯金も過去10年分をチェックされることがあります。調査に協力をせず悪質と見なされた場合は、取引相手を調査する「反面調査」によって申告漏れを追求されることになります。
申告漏れや所得隠しへのペナルティ
申告漏れや所得隠しが発覚した場合、程度に応じて下記の「加算税」が追加で徴収されます。もっとも重い「重加算税」は税率も高く、負担が相当大きくなります。
過少申告加算税:申告内容に間違いがあった場合、税率は10〜15%。
無申告加算税:申告期限を過ぎてから申告した場合や、期限後の申告内容に間違いがあった場合、税率は15〜20%。
重加算税:税額を過小に申告する「仮装隠蔽行為」があった場合、税率は35〜40%。
申告しても納税しなかった場合
相続税の申告した後、納税せずに放置していると、税務署から「督促」がなされます。それでも納税しない場合は、「滞納処分」として、相続財産の差押処分が行われ公売にかけられる可能性があります。また、状況によっては納税者自身の財産までも差押処分されることがあります。
相続税は「節税対策」が非常に大切
相続財産の額によっては、相続税は高額になる場合があります。しかし、納税を免れることはできませんし、放置していればより負担の重い納税義務を負うことになります。
とはいえ、相続税の納税は、「一括現金納付」が原則なので、期限までの納税が難しい場合もあります。そんな時に備えて、分割払いをする「延納」や相続財産で納税する「物納」という方法もあります。もっとも効果的なのは、事前に「節税対策」や「納税資金の確保」を行っておくこと。相続人が亡くなってからでは対策できないこともあります。生前中に話し合い、必要であれば税理士に相談しましょう。詳しくは、「事前にやっておきたい相続税の節税対策と納税資金の確保」をご覧ください。