故人の保険に関する手続き方法と注意すべきポイント
家族が亡くなった後に行わなければいけない大切な手続きの一つが「保険の手続き」です。保険には、生命保険や医療保険、国民健康保険や自動車保険などさまざまな種類があり、それぞれに手続きが必要です。しかし、保険証券を無くした場合や何の保険に入っているか分からない場合はどうすれば良いのでしょうか。しっかりと保険金を受け取るためにも、ぜひ持っておきたい知識です。また、相続財産があるなら、生命保険には非常に有効な活用方法があります。家族が亡くなってからではなく、生前から準備をしておくことで節税メリットも感じられるでしょう。
ここでは、保険の契約者が亡くなった後に家族が行うべき手続きや、注意するべきポイント、保険の有効活用方法などについてご紹介します。
保険の手続きのステップ(民間の保険会社の場合)
保険証券を探す
まずは、故人が保険に加入しているかどうか、どのような保険に加入しているかを調べます。保険証券があれば、契約内容や契約者、受取人などが判明します。
保険証券が見つからない場合は、次のような方法も試してみましょう。契約している保険会社が分かるだけでも、手続きがグッと楽になります。
- 生命保険料控除証明書を探す
- 紙ではなくネットのデータを探す
- 預金通帳の口座引き落としの履歴を確認する
- クレジットカードの支払い明細を確認する
- 勤務先に確認する(団体加入の可能性があるため)
保険会社に連絡する
加入している保険会社が判明したら、受取人に指定されている人が保険会社に連絡します。
この時、多くの場合は保険証券の番号が必要になるので、手元に保険証券を用意しておきましょう。加入している保険の種類にもよりますが、故人の名前や死亡日、死因などを聞かれる場合があります。また、死亡保険の場合は受取人の氏名や電話番号、住所などを聞かれます。
保険証券がない場合の手続き方法
加入している保険会社が分かっていて、保険証券がない場合
保険証券がなくても、契約している保険会社が分かれば、個人情報から契約を特定してもらうこともできます。ただ、死亡保険金の受け取り時には保険証券が必要となるため、保険会社で再発行してもらいましょう。
保険会社に加入しているかどうかが分からない場合
故人の死亡や判断力の低下などによって、生命保険に加入していたかどうかを調査することが困難な場合は、「生命保険契約紹介制度」によって契約の有無を照会することができます。詳しくは、一般社団法人生命保険協会(別サイト:https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/)をご覧ください。
手続きには、利用料のほか各種書類の準備が必要です。手続き方法は照会事由によって異なるため、ホームページで確認してください。
なお、この制度で調べることができるのは、保険契約の有無と契約している保険会社のみ。契約内容や契約者までは教えてもらうことはできないので、保険会社が判明したら、あとは上述した「保険手続きのステップ(民間の保険会社の場合)」の「02 保険会社に連絡する」の通り、保険会社から契約情報を教えてもらいましょう。
生命保険の請求手続きに必要な書類
請求書
保険会社が用意している書類で、Webサイトなどからダウンロードできます。直筆でもパソコン入力でも可能ですが、サインだけは直筆で行う必要があります。
保険証券
見つからない場合は保険会社に再発行を依頼しましょう。なくても保険金を請求ができる場合もありますが、手続きが複雑になるため、あるのが望ましいです。
死亡診断書、事故状況報告書、交通事故証明書
病院で発行される死亡診断書のほか、交通事故で亡くなった場合は、警察で発行される「交通事故証明書」が必要です。
また、事故や災害で亡くなった場合は保険会社で発行される「事故状況報告書」も必要になります。事故と言っても交通事故だけでなく、下記のような場合も該当します。
転倒/転落/衝突/急激な動作/挟まった・切れた/溺れた・窒息・火傷
故人の住民票除票
故人が最後に住んでいた地の市区町村役場(役所)で取得できます。死亡届を提出してから住民票が除票となるまでに1〜2週間程度かかるので、ご注意を。
受取人の戸籍謄本と印鑑証明書
戸籍謄本は遺産相続の際にも必要となるため、相続手続きと同時に取得しておくと良いでしょう。
保険の手続きで注意すべきポイント
受取人がすでに亡くなっている場合
受取人が亡くなっている場合は、原則として自動的に受取人の相続人が保険金を受け取ることになります。この場合の受取人を指定したい場合は、契約者が亡くなる前に、受取人を速やかに変更しておくことをおすすめします。
死亡から3年以内に請求する
生命保険金の請求手続きの期限は、死亡した日から3年以内。3年を経過すると保険金を受け取る権利がなくなります。早めに着手しましょう。
生命保険は相続財産ではない
生命保険金は受取人固有の財産として認められるため、遺産相続の対象にはなりません。ただし、保険金が高額で、他の相続人との間に不平等が生じる場合は例外的に遺産分割の対象になります。判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
生命保険の有効な活用方法とは
生命保険金自体は相続財産ではありませんが、他に相続財産がある場合は、次のような方法で生命保険を有効活用できます。
- 代償金に割り当てる
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不動産の相続時には、代償金(「トラブルになりやすい不動産相続」の「対処法01:代償金を支払う」)の支払いが必要になる場合があります。生命保険金があれば、その原資として活用することができます。
- 相続税の節税
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現金をそのまま相続すれば相続税がかかります。現金と同様に生命保険金にも原則的には相続税がかかるのですが、500万円×法定相続人の人数までは非課税となります。なので、契約者の存命中に現金を生命保険に換えることで相続税を節税できる可能性があります。
- 遺留分の対策
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まず遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった人の配偶者・子・親という法定相続人に最低限保障される遺産取得分のことを言います。
死亡保険金(生命保険金)は、被相続人の死亡によって支払われるお金のため、遺産に含まれるのでは?と思われる方がいるかもしれません。しかし、原則として、生命保険は遺産分割の対象となる「相続財産」には含まれないのです。
理由として、生命保険金は、保険会社から保険金受取人に支払われるものなので、被相続人(亡くなった方)の財産ではなく、保険金受取人固有の財産として扱われるからです。このようなわけで、生命保険金は遺産分割の対象となる相続財産に含まれないため、「遺留分」の対象にもならないのです。
ですので、特定の相続人に多くの財産を贈与したい場合は、特定の相続人を「保険金受取人」として指定した生命保険契約を利用すると良いでしょう。こうすることで、他の相続人の遺留分を心配することなく、希望通りに事を運ぶことが可能となります。
また、遺留分侵害額請求を受けることを前提として、それに対する資金を別に用意しておくため、他の相続人の遺留分を侵害することとなる相続人を保険金受取人として指定した生命保険契約を利用することも多いです。
ただし、相続人が受け取る生命保険金には、相続税または贈与税が課税される可能性があるため、生命保険金を特定の相続人に渡したい場合は、税金についても考慮する必要があります。
健康保険証の手続き方法
健康保険証は、公的機関から発行されるため、民間の保険会社とは手続の方法が異なります。加入している保険の種類によって、次のような手続きを行います。
国民健康保険の場合
故人の健康保険証は、国民健康保険資格喪失届(75歳以上の場合は後期高齢者医療資格喪失届)とともに市区町村の役所に返還します。故人が世帯主で、その扶養家族も国民健康保険に加入していた場合は、新しい健康保険証を発行してもらう必要があります。この場合は、扶養家族が自分で国民健康保険に加入するか、もしくは他の家族の被扶養者になる手続きを行います。
社会保険の場合
故人が会社の社員や団体職員だった場合は、所属していた会社や団体に連絡して健康保険証を返却し、手続きを行ってもらいます。家族が健康保険組合などに直接返却を行うケースはほとんどありませんが、やむを得ず自ら手続きを行う場合は、会社や団体の住所がある各都道府県の協会けんぽや健保組合に返却することになります。
保険証を紛失した場合
遺品整理をしても保険証が見つからなかった場合、その保険に被扶養者が加入していれば役所で再交付を申請し、被扶養者の保険証を作成しなおす必要があります。しかし、他に加入者がいなければ、特に手続きを行う必要はありません。
手続きを代行してもらうことも可能
民間の保険会社への請求手続きは、専門家でなくても行うことができるため、遺品整理業者などに手続きを依頼することもできます。特に資格も必要ないので、信頼できる業者に任せるのも一つの方法でしょう。健康保険の手続きに関しても、委任状があれば代理人に任せることができます。
ただいずれにしても、保険証券を探す、というファーストステップは家族にしかできません。できる限り生前のうちに加入している保険会社の名前や保険証券の保管場所を聞き取っておくことをおすすめします。