トラブルになりやすい不動産相続。その理由と対処法
遺産相続は何かと問題が起きやすいもの。財産の配分をめぐる相続人同士のトラブルはもちろんですが、法律など制度上の壁にぶつかってスムーズな相続ができない場合もあります。一度問題が発生すると、手続きが煩雑になって相続に時間がかかったり相続人の間で後々まで禍根が残ったりと、良いことはありません。あらかじめトラブルが起きないように、事前に準備を進めておくことがまずは大事です。相続人だけでなく、被相続人自身が生前中に行える準備もたくさんあります。
ではどのような問題が起きやすく、それに対してどのように対処し、生前の対策として何に注意しておけば良いのでしょうか。ここでは、トラブルを起こす可能性があるケースやその対処法をご紹介します。
トラブルになりやすい不動産相続
遺産が現金の場合は正確に分割することができるためトラブルにはなりにくいのですが、家や土地などの不動産の場合はきれいに分けづらく、相続人の誰が相続するにしても不公平感が生まれて揉める原因になります。
対処法01:代償金を支払う
他の相続人よりも遺産を多く相続した人が、他の相続人に対して現金等で差額を補償する方法です。これを、「代償分割」と言います。
例えば、不動産の評価額が2,000万円で現金の相続が1,000万円あり、A、B、Cの3人の相続人がいるとします。Aが不動産を相続したら、BとCは現金を500万円ずつしか相続できません。そこでAはBとCに500万円ずつ代償金を支払います。これで、3人が平等に1,000万円ずつを相続することができます。
一括で支払うことができない場合は、BとCの合意を得た上で分割払いにすることも可能ですが、B,Cとしては将来にわたって本当に払い続けてくれるのか不安になり、合意形成が難しい場合も多々あります。
また、代償金の代わりに、Aが所有する不動産や未公開株式など、現金以外の財産をBとCに譲渡するという方法もあります。ただし、譲渡に伴って所得税や住民税が発生する可能性があることは念頭においておく必要があります。また、相続した物件を担保に、不動産担保ローンを借り入れるという方法もあります。
対処法02:共有する
「共有分割」という方法で、不動産を共有名義で相続するとこともできます。ただし、それで根本問題が解決するわけではありません。相続人の誰かが「売却したい」と希望し、他の相続人がそれに反対した場合は再び話し合う必要があり、そこでトラブルが再燃するケースもあります。
対処法03:売却する
不動産を売却し、現金化して公平に分ける「換価分割」という手もあります。「親が残した大切な家を売りたくない」「自分が住みたい」という希望は叶いませんが、相続人同士のトラブルは防ぐことができます。
不動産を相続する時の注意点
不動産は、相続時にトラブルになりやすいだけでなく、相続後にも注意が必要です。
- 所有すると「固定資産税」「都市計画税」が発生する
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固定資産税は、土地や家屋、償却資産に対して課せられる税金で、都市計画税とともに毎年徴収されます。土地や家屋の評価額が大きいほど税額も増えるため、負担を念頭に入れておく必要があります。また、相続後に家屋を放置すると、国から「特定空き家」に指定される可能性も。その場合は固定資産税は6倍、都市計画税は3倍と非常に負担が重くなるため、相続後、どのように活用するかを考えておきましょう。
- 売却には「住民税」と「所得税」が発生する
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相続した不動産を売却した際の売却益は「譲渡所得」と見なされ、翌年の所得税や住民税が増額されます。税率は不動産の保有期間によって異なり、譲渡した年の1月1日時点で5年以上の場合は所得税が15%、住民税が5%で、5年以下の場合は所得税が30%、住民税が9%です。
売却時にはこうした税金についても念頭に置いておく必要があります。
相続した不動産の活用方法
前項でも述べたとおり、相続した不動産を放置するのはお勧めできません。相続前に、どのような活用方法がベストかを話し合って決めておくことをおすすめします。
相続人が住む
相続人自身の家として住むのが最もシンプルな方法です。家屋が古くなればメンテナンスなども必要となりますが、資金計画を立てておけば、ローンや家賃の支払いもなく住み続けることができます。
売却する
活用の予定がない場合は、早めに売却を検討した方が良いでしょう。所得税や住民税はかかりますが、売却益として現金を得ることができます。
収益化する
貸家にしたり、更地にして駐車場や賃貸住宅を経営したりすれば、不動産収入を得ることができます。ただし、経営ノウハウが必要であることと、所得税がかかるという点では注意が必要です。
トラブルを招かないために、生前中にできること
遺言書は具体的に書く
遺言書を作成する際は、曖昧な内容ではなく「誰に何を相続させるのか」を明確に記載することが大切です。曖昧な内容では遺言書の内容を実現することが出来ず、遺産分割協議を行わなければならない為、時間がかかってトラブルも起きやすくなります。
また、財産目録を作成し、全ての遺産を明確にしておくことも大切です。
「寄与分」に注意する
被相続人の財産形成や介護などの療養看護に貢献した相続人は、法定相続分に上乗せして相続財産を請求することができます。これを「寄与分」と言います。例えば、被相続人の事業を手伝った人や、介護のために仕事を辞めた人などが寄与分を請求できます。
ただ、請求をしたとしても、相続人間で請求を認める、認めないといった意見の対立が生まれるケースが多々あります。裁判所に審判を求めても、相続人が貢献したという証拠がなければ寄与分を認めてもらうのは難しいでしょう。公平な相続を望む場合は、被相続人が生前のうちに、相続人の貢献について内容や日付などの記録を残しておくことが大切です。
なお、寄与分の金額は相続人全員による協議で決定します。その上で、相続財産を全て合算し、そこから寄与分を差し引いた財産を全ての相続人に分割、最後に寄与分を請求した相続人の相続分に寄与分を上乗せします。
「特別受益」に注意する
一部の相続人が、被相続人から生前贈与や遺贈などの利益を受けることを「特別受益」と言います。特別受益を受けた人が他の相続人と同じ割合で遺産相続をすると、相続財産の総額が大きくなり、不公平になります。そこで、特別受益分を差し引いて相続割合を決定する措置を取ることでトラブルを回避することができます。この時の計算方法は、民法903条によって定められています。
ただし、どのような場合を特別受益と捉え、どのように取り扱うかは相続人間で共通の認識を持っておくことが大切です。生前贈与や遺贈をする際には、特別受益の取扱いについてあらかじめ話し合っておきましょう。
海外に財産がある場合や相続人がいる場合に注意する
海外にある財産は、海外の法律や税制に基づいて現地の言語で相続手続きを進める必要があります。海外の専門家と相談して相続に備えておくか、国内に財産を移管しておくなどの準備をしておくことが大切です。
また、相続人が海外に居住している場合は、遺産分割協議をスムーズに行えるように事前に連絡しておくと良いでしょう。協議自体は電話やオンラインでも行うことができます。また、被相続人が一定額以上の有価証券等を所有しており、海外在住の相続人がその全部または一部を相続する場合は、原則して相続開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月を経過した日の前日までに、準確定申告および納税を行う必要があるため、その事前準備も必要です。
遺言書の存在をしっかり伝えておく
遺言書が見つからなかったため遺産分割協議を行ったものの、協議の成立後に遺言書が見つかったという場合、相続人全員が遺産分割協議の内容に合意していたとしても、基本的には「遺言書の内容に従う」ことになります。これは、遺言書の内容は最大限に尊重されるべきものであり、法定相続分よりも優先されるものとなるからです。
遺言書が後で見つかり、協議で合意した内容が決定事項として優先されない場合、例として下記のようなケースは遺産分割をやり直さなければなりません。
- 遺言書に遺言執行者が選任されている
- 相続人以外の第三者に相続させる内容が書かれている
- 遺言によって排除されている相続人がある場合
このような場合は個々のケースによって対応方法は異なるため、専門家の意見も聞きながら進めた方が良いでしょう。
しかし、そもそも遺言書が最初から見つかっていれば問題はなかったはず。遺言書を作成したら、その存在を知らせておくことが何よりも大事です。
相続税について対策を打っておく
相続財産のうち、金融資産の割合が少なく不動産が多い場合は、相続税の納税資金が不足することがあります。場合によっては、納税資金がないために不動産を売却しなければならないケースもあるでしょう。しかし、相続税の申告・納付期限までに不動産を売却するためには、測量や相続登記、契約、決済と短期間で膨大な手続きを行わなければならず、相続人にとっては負担が大きいもの。下記のような対策を打ち、計画的に納税資金を用意しておくことが大切です。
- 相続前に不動産や貴金属などを売却しておく
- 相続人を受取人に指定した生命保険に加入しておく
- 生前贈与を活用し、財産を計画的に移転しておく
生前から話し合える環境を作っておきましょう
親の生前から家族間の関係性が良くないと、相続時に揉めやすくなってしまいます。生前中から家族間で話しあえる関係性を築いておくことが一番の問題解決の道。被相続人はどのように財産を引き継ぎたいと考えているのか、相続人はどのように受け継ぎたいのか、お互いに話しあってみてはいかがでしょうか。そうすれば、いざというときも話し合いが非常にスムーズになりますし、相続税をどのように用意をするのかを相談して決めることもできます。お互いに良好な関係を築くとともに、遺言書の作成など事前の準備をしておきましょう。