相続人と相続財産が確定すると、いよいよ遺産相続の分割に関する手続きに入っていきます。遺言書がある場合もない場合も、手続きの時期や流れ、必要となる書類が法律によって定められているので難しく感じられるかもしれませんが、専門家に相談しつつ、注意深く進めましょう。
ここでは、相続の際に行う手続きやそのタイミング、必要となる書類、注意すべきポイントなどについて解説します。スムーズな相続手続きのためにお役立てください。
遺産分割方法の確認
相続財産が確定したら、まずはその財産を誰にどのように分割するのかを確認します。分割方法は、1.遺言書通りに分割、2.遺産分割協議で決定、3.法定相続分で分割の3通りがあります。遺言書があれば被相続人の意思が最大限に尊重され、基本的にはその内容が最優先されます。ただし、遺言書があっても下記のような場合には遺産分割協議や法定相続分に従った分割になる可能性があります。
- 遺言書に、法定相続分に従った分割が指定されている場合
- 法定相続人全員が法定相続分に従った分割に合意している場合
- 遺言書が無効と判断された場合
- 遺言書で配分が指定されていない遺産がある場合
遺産分割協議が成立した後で遺言書が発見された場合は?
成立後に遺言書が出てきた場合、原則として遺言書の内容に従うことになりますが、相続人全員が既に行った遺産分割協議の内容に合意していれば、協議の内容をそのまま優先させることができます。遺産分割をやり直す必要はありません。ただし、後から発見された遺言書の内容を確認した上で、相続人以外の第三者に遺贈させる内容の遺言となっている等の場合は、改めて再分割の協議を行うことになります。そのため、遺言書の有無は協議を行う前にしっかりと確認しておくことが大切です。
負の財産を引き継ぎたくない場合
相続財産はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産=借金やローンなども含まれ、相続人はそれも同時に相続することになります。したがって、マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合、相続人が負債を抱えることになってしまいます。それを避けたい場合は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に手続きを行うことで「相続放棄」をすることができます。
全ての相続財産を調査し、プラスの財産から債権者に必要な支払いを行った後に残りを相続人が受け取る「限定承認」という手続きを行うこともできます。こちらも相続放棄と同様に、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に手続きを行います。
ただし、相続放棄や限定承認を行う場合は、相続財産を処分しないようにご注意を。処分したのがたとえ一部であっても相続する意思があるとみなされてしまい、相続放棄ができなくなってしまう恐れがあります。
相続税の申告
相続財産を取得した際、相続人には財産の金額に応じた納税義務が生じ、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署への「相続税の申告」が必要となります。相納税額は、相続税の総額を算出した後、相続割合に応じて各相続人で按分して算出されます。詳しくは「相続税」の章で解説します。
遺産分割協議で配分を決定する場合
遺言書がない場合は、相続人全員が出席して遺産分割を話し合う「遺産分割協議」を行い、相続人全員が合意すればここで協議は終了となります。遺産分割協議を行う時期に法的な期限はありませんが、相続税や申告納税の関係から、相続開始後9〜10ヶ月以内に行われることが推奨されています。
遺産分割協議のやり方
遺産分割協議は相続人全員の出席が必要で、一人でも参加していなければ協議の内容は無効とされてしまいます。未成年者や音信不通の人、認知症の人も原則として協議に関与する必要がありますが、状況によっては不在者財管理人や親権者、または特別代理人、成年後見人などが本人の代理として協議に参加する必要があります。
なお、成人年齢が18歳に引き下げられたことにより、遺産分割協議についても18歳から参加して自分で意思表示を行うことができるようになりました。
遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意を得ることができれば、遺産分割協議書を作成して協議は終了となります。これは、後にトラブルにならないように、協議で合意に至った決定事項を取りまとめたもの。法的に定められた書式はなく、自分で作成することもできます。ただし、金融機関や法務局、税務署などに提出することになるため、内容に不備があると受理されず、再度作成しなければならない場合もあります。例えば、金融機関に提出する際は銀行名や支店名、口座の種類など、詳細をどこまで記載すればよいかという点には注意が必要。細かく記載すれば内容は明瞭になりますが、あまり細かく記載しすぎても、新たな口座が見つかった場合にその内容では対応できなくなることもあります。また、提出先によっても求められる内容は異なるため、判断が難しい場合は弁護士や司法書士、税理士や行政書士などの専門家に作成してもらう方が安心です。
遺産分割協議で合意に至らなかった場合
● 遺産分割調停
全ての遺産が現金や銀行預金の場合は、法定相続分に応じてきっちりと分割できますが、土地などの不動産や車などの動産は、相続人が複数いれば共有財産となり、売却が難しくなって分割方法でトラブルになるケースも多々あります。
このように相続人全員の合意が得られなければ、相続人のうちの一人または数人で他の相続人を相手に、家庭裁判所による「遺産分割調停」を申し立てます。遺産分割調停では、調停委員が各相続人から聞き取りを行い、それぞれの希望に近い形で合意を目指します。一般的に調停は1〜2ヶ月に一度の頻度で複数回にわたって行われ、成立までには数ヶ月〜1年ほどの期間がかかります。
● 遺産分割審判
遺産分割調停でも解決に至らず、調停が不成立になった場合は最終的に裁判所による「遺産分割審判」によって分割方法の判断が下されることになります。遺産分割審判では、審判の内容には法的な効力があり、これに反すると強制執行などの手続きが取られます。
相続手続きの方法
遺産分割方法は大きく4つあります。
1.現物分割
土地や建物、車などの財産をそのままの状態で各相続人が相続する方法です。財産の価値を毀損せず引き継ぐことができるため、最も一般的な方法と言えるでしょう。しかし、現物分割は現金のように正確に分割することが難しいため、相続人間で取得格差が生まれてしまうことも。その場合には、次の代償分割が用いられます。
2.代償分割
特定の相続人が相続財産を現物で取得し、他の相続人に対して、自身の財産から相当分を支払うことで他の相続人との取得格差を解消する方法です。現物分割より公平に分けることができます。
3.換価分割
相続財産を売却し、得られた売却金を分割する方法です。土地など、現物では取得を希望する相続人がいない場合も現金として法定相続分できっちりと分割できる点がメリット。ただし、売却時にかかる処分費用や譲渡所得税の支払いなどによって相続額が減少するというデメリットもあります。
4.共有分割
土地や建物など、分割が難しい財産の一部または全部の所有権を複数の相続人で共有する分割方法です。代償分割や換価分割に反対する相続人がいて決着できない場合の最後の手段として採用されます。ただし、共有分割は根本的な解決にはなりません。固定資産税などの維持費を誰が負担するのかという問題も出てきますし、年月を経るほどに売却や処分も難しくなります。できれば共有分割以外の方法での分割をおすすめします。
相続手続きに必要な書類
預貯金口座の解約や死亡保険金の請求など、相続手続きを行う際は、金融機関や市役所などが求める書類を提出する必要があります。特に、正確な相続関係を証明するために求められることが多いのが戸籍と遺産分割協議書です。
遺産分割協議書が必要な相続手続き
- 預金相続
- 不動産の名義変更
- 相続税の申告
法定相続情報一覧図があると便利な手続き
- 不動産の名義書換え
- 相続税の申告
- 銀行や証券会社の相続手続き
- 保険金請求手続き
法定相続情報一覧図とは、相続関係を一覧にしたものです。法務局に、申出書と戸籍謄本など相続関係を証明する書類、作成した法定相続情報一覧図を提出することで、登記官によって認証文が付された「法定相続情報一覧図の写し」として発行されます。
この写しがあれば、さまざまな相続手続きにおいて戸籍関係の書類の代わりに使用でき、手続きのたびに戸籍謄本を取得する必要がなくなります。これは「法定相続情報証明制度」といい、2017年4月29日から開始した制度です。
場合によって必要となる住民票の写し・印鑑証明書
相続人の印鑑証明や住民票の写し、被相続人が住んでいた住所を証明するための住民票の除票の写しが必要となる手続きもあります。戸籍関係の書類を集める際に、一緒に取得しておくと良いでしょう。
財産の相続手続きと必要書類
ここからは、それぞれの財産に応じた手続き方法について解説します。
預貯金の相続
被相続人の預貯金口座を解約した後、各相続人の口座に相続分を振り込む手続きを行います。遺言書や遺産協議書の有無によって必要となる書類が異なるため、まずは金融機関に相談しましょう。
証券口座の相続
被相続人が取引していた証券会社に連絡し、証券を引継ぐ手続きを開始します。故人名義では株式の売買などができないため、 相続人がその証券会社の口座を持っていない場合は口座を開設し、被相続人の証券口座から相続人の口座に株式や投資信託を移管します。
不動産の相続
家や土地などの不動産を相続する場合は、法務局で登記簿上の所有者名義を被相続人から相続人へと変更する必要があります。必要書類は、「遺言書」「遺産分割協議」「法定相続分」のいずれの方法で遺産分割を行うかで異なります。
遺言書通りに相続する場合の必要書類
- 遺言書
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の戸籍謄本・住民票
- 不動産の全部事項証明書
- 固定資産税の評価証明書
- 相続人から司法書士への委任状
- 被相続人の住民票の除票
「不動産の全部事項証明書」は法務局で、「不動産の固定資産税の評価証明書」は不動産の所在地の市区町村役場で取得することができます。いずれも数百円程度の手数料で簡単に取得できるのでご安心を。
「相続人から司法書士への委任状」は、手続きを司法書士に依頼した場合に必要となりますが、司法書士が作成するため自身で用意する必要はありません。司法書士が発行した委任状に相続人が署名や捺印をします。
法定相続分割合で相続する場合に必要な書類
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍・住民票の除票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本・住民票
- 固定資産税評価証明書
「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍」は、被相続人の本籍地のある市役所や区役所で、被相続人の住民票の除票」は、被相続人の死亡時の住所地の市役所や区役所で取得します。
「相続人の現在の戸籍謄本」は、各相続人の本籍地の市役所や区役所で、「相続人全員の住民票」は、各相続人の住所地の市役所や区役所で取得します。
「不動産の固定資産税評価証明書」は、不動産の所在地の市役所や区役所場で取得します。
遺産分割協議書にしたがって相続する場合に必要な書類
遺産分割協議書
まずは、遺産分割協議書に相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
何らかの理由で実印を押印できない相続人がいる場合、例えば、認知症などで自らの判断では協議が難しい場合は、家庭裁判所に申し立て、「成年後見人」や「特別代理人」などの代理人を選定する必要があります。
相続人が海外在住の場合、印鑑証明書の代わりに大使館や領事館で「サイン証明」を取得します。それが難しい場合は、日本に一時帰国した際に住民票を日本に移してその場で印鑑証明書を取る、もしくは公証人に「私署証明の認証」をしてもらうという方法があります。また、相続人が受刑者の場合は刑務所長に「奥書証明」を書いてもらい、印鑑証明書の代わりにすることができます。
自動車の相続
まずは自動車検査証(車検証)の使用者と所有者を確認しましょう。被相続人が所有者の場合は、新しく所有者になる人の所在地を管轄する運輸支局で名義変更手続きを行います。販売店等が所有者で被相続人が使用者の場合は、所有者に対し残債がないか確認した後に名義変更手続きを行います。
自動車の名義変更に必要な書類
- 申請書(陸運局で入手)
- 自動車検査証
- 戸籍謄本または戸籍の全部事項証明書
- 遺産分割協議書
- 全相続人の印鑑証明書
- 車庫証明(証明後1ヵ月以内)
- 自動車税自動車取得税申告書
- 認印
自動車保険の名義変更に必要な書類
- 自賠責保険名義変更届
- 自動車保険契約異動申請書
- 保険証券
相続手続きに必要な書類まとめ
被相続人に関するもの
- 戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(全部事項証明書) ※出生から死亡までの連続した戸籍が必要
- 住民票の除票
- 戸籍の附票
- 遺言書
相続人に関するもの
- 戸籍謄本・全部事項証明書
- 住民票抄本
- 印鑑証明書
- 遺産分割協議書
相続財産に関するもの
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 不動産賃貸借契約書
- 不動産の図面、公図
- 預貯金残高証明書
- 公社債残高証明書
- 株式等の明細書
- 生命保険金支払明細書
- 公租公課納付書
- 借入金残高明細書
- 葬式費用明細書
など
トラブル回避のためにも、専門家に相談を
遺産相続の大まかな流れや遺産分割協議のやり方、相続に必要な手続き方法などをご紹介しました。必要となる書類の多さや手続きの煩雑さには誰しもが戸惑うものです。また、遺言書がない場合にはトラブルにもなりやすく、精神的にも疲れてしまいます。しかし期限が定められている手続きもあるため、早めに相続財産を確認し、できるだけ速やかに手続きを進めていくことが大切。そのためにも、一人で抱え込まず、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。