被相続人が死亡した後の相続は、1.遺言書の有無の確認、2.相続人の確定、3.相続財産の確認、4.遺産分割方法の確認、5.相続手続きという流れで進みます。つまり、実際に遺産相続が開始するまでに、さまざまな手続きが必要となるのです。また、死後1週間から10日ほどの間には役所への届出なども行わなければならず、葬儀も含めて慌ただしくなります。これは、残された家族だけの問題だけではありません。被相続人が生前、少しの準備を進めておくだけでも手続きは非常にスムーズに進みます。
ここではまず、被相続人の死後、相続の前に必要となる手続きについて解説します。手続きの流れを把握し、終活を進める際の参考にしてください。
市役所・区役所への届出
未支給年金請求の届出
年金の受給停止手続きを行うと、「未支給請求書」という書類を渡されます。被相続人に支給すべき年金で、まだ支給されていないものを「未支給年金」と言い、「未支給年金請求の届出」を行うことで遺族に支給されます。未支給年金は相続財産ではないため、もらえる人は故人と生計を同じくしていた配偶者や子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等内の親族に限られています。
手続きには、下記の書類が必要となります。
- 故人の年金証書
- 故人と請求者の続柄が確認できる書類
- 故人と生計を同じくしていたことを証明する書類
- 金融機関の通帳
- 生計同一関係に関する申立書
介護保険資格喪失の手続き
故人が介護保険制度による介護保険を受けていた場合は、市区町村の介護保険課に保険証の返納手続きを行います。後期高齢者医療保険に加入している場合は、同時に後期高齢者医療保険の資格喪失手続きも行うと良いでしょう。
手続きには、下記の書類等が必要です。
- 介護保険資格喪失届
- 介護保険被保険者証
- 認印
世帯主の変更手続き
故人が3人以上の世帯の世帯主だった場合は、世帯主変更届を行います。
届出には、下記の書類が必要です。
- 世帯主変更届
- 届出人の認印
- 届出人の本人確認書類
相続人の確定
遺言書がある場合
遺言書通りに相続を行う場合は、記載された人が相続人となるため、法定相続人を確定するための手続きは不要となります。相続手続き時には被相続人の戸籍謄本などが必要となります。詳しくは、「相続の流れと手続き」の項で詳しく解説します。
遺言書がない場合
遺言書がない場合は、法定相続人全員が参加した話し合いである「遺産分割協議」によって誰がどの財産を引き継ぐかを決定します。そのため、まずは被相続人の死後、すみやかに法定相続人を確定する必要があります。
相続人の確定は、被相続人の死亡時の本籍地がある市区町村役場で、死亡が記載された最後の戸籍から出生までさかのぼり、連続した全ての戸籍を取得することで可能になります。
戸籍謄本と戸籍抄本の違い
戸籍には種類があり、「戸籍謄本」「戸籍抄本」「除籍」「改製原戸籍(かいせいはらこせき・かいせいげんこせき)」「戸籍の附票」などがあります。
戸籍謄本:全部事項証明書とも呼ばれ、戸籍に入っている全員の事項を写したものです。
戸籍抄本:個人事項証明書とも呼ばれ、戸籍に記された内容の一部を写したものです。
1つの戸籍に全ての戸籍が記されているわけではなく、結婚や転籍、法改正などさまざまなタイミングで新たな戸籍が作られます。死亡時から出生時までさかのぼって連続した戸籍を取得する必要があるのは、このため。かなりの労力がかかるため、行政書士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
戸籍謄本を全て収集した後、その記載内容から法定相続人を確定します。
法定相続人への相続に関しては、原則として次のように法律で定められています。
まず、配偶者のみの場合は全ての財産を配偶者が相続します。配偶者の他に親族がいる場合は、第一順位に子や孫、ひ孫、第二順位に父母や祖父母、第三順位に兄弟姉妹もしくは代襲相続した甥や姪が法律で定められた割合に応じて相続します。
法定相続分の相続割合 | ||||
---|---|---|---|---|
相続人の状況 | 配偶者 | 第1順位 | 第2順位 | 第3順位 |
子・孫・ひ孫 | 父母・祖父母 | 兄弟 いない場合は甥・姪 |
||
配偶者のみの場合 | 1 | ー | ー | ー |
配偶者がいる場合 | 1/2 | 1/2 | ー | ー |
2/3 | ー | 1/3 | ー | |
3/4 | ー | ー | 1/4 | |
配偶者がいない場合 | ー | 1 | ー | ー |
ー | ー | 1 | ー | |
ー | ー | ー | 1 |
相続財産の確認
相続人の確定後、被相続人の死亡から1ヶ月程度で相続財産を確認します。まずは、被相続人が死亡した日の時点で所有していた財産の一覧表を作成しましょう。土地、家屋・建物、有価証券、預貯金、生命保険などの財産や権利のほか、借金などの負の財産がないかどうかも調査します。
これらの財産を確認するには、戸籍謄本や身分証明書、金融機関等が発行する証明書などが役立ちます。最近では、インターネットバンキングやネット証券、仮想通貨など、通帳や証券のない財産も増えてきています。調査漏れしやすいため、注意しておきましょう。遺言書に財産目録が付属している場合は、非常に参考になります。
遺言書の有無で手続きは大きく変わります
被相続人の死後は、さまざまな手続きが必要となります。特に遺言書がない場合は用意する書類が多く、相続人全員での話し合いも必要に。仮に相続人の一人が海外にいる場合や音信不通の場合には協議が滞ってしまうケースもあります。だからこそ、終活を進める上では遺言書や財産目録作成しておくことが非常に大切なのです。それに加えて、年金証書や保険証などの保管場所を家族に伝えておくことも重要です。
遺言書の作成方法は、「遺言書」の章で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。また、遺産分割の具体的な方法は、「相続の流れと手続き」で解説しています。こちらも参考にしながら、円満な相続にお役立てください。