老人ホームの入居費用を抑える方法。老後の資金問題を解消するための対応策は?
老人ホームにはさまざまな種類があり、入居にかかる費用も施設によって大きく異なります。老人ホームを選ぶ際には、利用者や利用者を支える家族の経済状況に応じて、入居し続けられる施設を選ぶことが大切です。しかし、急な収入の減少で月額利用料が支払えなくなったり、病気や怪我で想定していた以上の介護費用がかかったりするケースもあります。利用料を支払えなくなると、利用者はどうなるのでしょうか?
ここでは、老人ホームにかかる費用を安く抑える方法や利用料金の支払いが滞ってしまった場合にとるべき対応、費用の支払いに困らないために知っておきたい制度などについてご紹介します。
老人ホームの入居費用を安く抑えるには
老人ホームは、施設の種類や設備内容によって金額が大きく異なります。では、老人ホームの入居費用を抑えるには、どのような施設を選べばよいのでしょうか。
公的施設ならほとんどの施設が入居一時金ゼロ
民間施設よりも公的施設の方が入居一時金も月額利用料も安く抑えられる傾向にあります。主な公的施設は、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、ケアハウスなど。下記の料金相場を見ても分かるように、中でも特別養護老人ホームは、低価格かつ入居条件も緩いためおすすめです。
<公的施設の料金相場>
種別 | 初期費用 | 月額 | 入居条件 |
特別養護老人ホーム | 0円 | 6~15万円 | 要介護3〜 |
養護老人ホーム | 0円 | 0〜14万円 | 自立、生活保護受給者、低所得者 |
介護老人保健施設 | 0円 | 9〜20万円 | 要介護1〜 |
介護医療院 (介護療養型医療施設) |
0円 | 10~20万円 | 要介護1〜 |
ケアハウス (軽費老人ホームC型) |
0~数百万円 | 7~20万円 | 自立〜 |
立地や設備面でデメリットのある施設は低価格
介護施設も一般的な賃貸物件と同様に、駅からのアクセスや周辺環境など、立地によって利用料金が異なります。立地を重視しないなら、駅から遠い施設を選ぶというのも一つの手です。
また、2〜4人で一つの部屋に入居する多床室なら個室の半額程度の料金で利用できます。プライバシーの問題や同室の人との相性、騒音問題などの心配はありますが、それほど気にならない人にとっては良い選択肢と言えるでしょう。
利用する介護サービスを取捨選択する
歯ブラシや石鹸、おむつなどの日用品や嗜好品、レクリエーション参加費、理美容代などは月額利用料金に追加で費用がかかります。私物を持ち込むなどして、なるべく雑費がかからないようにすることで費用を抑えることができます。
また、介護保険適用外の介護サービスを利用した場合は全額自己負担となり、利用した分だけ費用が高くなります。例えば次のように、利用者が生活する上で必要とするケアとは関わりのないサービスは、介護保険適用外となります。
- 買い物代行
- 金銭管理
- 通常の掃除では行わないような室内の大掃除
- 趣味のための外出の介助
一回一回の料金は大きくなくても、年間で通してみると費用がかさむものです。頼める家族がいるのであれば、買い物や外出の介助は家族に行なってもらうと良いでしょう。
介護保険制度の助成制度を利用する
介護保険制度には、利用者の自己負担額を抑えるための助成制度がいくつか用意されています。利用するには要件を満たしていることが必要になりますが、大幅に費用を減額できるため、ケアマネジャーや市区町村の窓口に相談し、該当するかどうかを確認してみましょう。
- 特定入所者介護サービス費
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特定入所者介護サービス費は、所得や資産が一定基準以下の方を対象に、食費や居住費を軽減してもらえる制度です。所得に応じた自己負担限度額が設定され、これを超える金額については支払わなくてもよい仕組みになっているため、介護度が進んで自己負担額が増えた方でも安心して施設に入居し続けることができます。
- <特定入所者介護サービス費の対象施設>
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特定入所者介護サービス費はどの施設でも利用できるわけではありません。対象となっているのは、次の7施設です。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 短期入所療養介護(医療型ショートステイ)
- <利用の要件>
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特定入所者介護サービス費を利用するには、収入や資産に関する次の4つの要件を全て満たしていることが必要です(2022年12月現在)。適用要件は度々見直しが行われているため、利用できるかどうか、最新の要件を厚生労働省のホームページや市区町村の窓口などで確認しましょう。
- 本人が介護認定を受けている
- 本人とその同一世帯の人全員が市町村民税非課税者
- 本人の配偶者(世帯別も含む)が市町村民税非課税者
- 本人の預貯金等合計金額が単身で1,000万円以下、配偶者がいる場合2,000万円以下
さらに自己負担額は次の4段階に分かれています。
段階によって自己負担額は異なりますが、1日あたり数百円〜1,000円程度が減額されるため、長期的に見ると大きなメリットとなります。
- 高額介護サービス費
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高額介護サービス費は、1ヶ月に支払った自己負担額の合計額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合、超えた分の料金が払い戻される制度です。
- 高額介護合算療養制度
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高額介護合算療養制度は、1年間の介護保険と医療保険の合計自己負担額が高額になった場合に、負担額の一部が払い戻される制度です。
なお、高額介護サービス費で支給された額は差し引いて支給されます。- <利用の要件>
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国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療制度の各医療保険における世帯内であること
- 1年間の医療保険と介護保険の自己負担合算額が、各所得区分に設定された限度額を超えた世帯であること
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- <自己負担限度額>
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世帯収入 外来(個人ごと) 1か月の上限額
(世帯ごと)現役並み 年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%<多数回140,100円※4>(1か月の上限額(世帯ごと)を含む) 現役並み 年収約770~約1,160万円 167,400+(医療費-558,000)×1%<多数回93,000円※4>(1か月の上限額(世帯ごと)を含む) 現役並み 年収約370~約770万円 80,100+(医療費-267,000)×1%<多数回44,400円※4>(1か月の上限額(世帯ごと)を含む) 一般 年収156万~約370万円
標報26万円以下
課税所得145万円未満※318,000円
(年144,000円※5)57,600円
<多数回44,400円※4>低所得者 住民税非課税世帯 8,000円 24,600円 低所得者 住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)8,000円 15,000円 ※3 世帯収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合や、「旧ただし書き所得」の合計額が210万円以下の場合も含みます。
※4 過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回」の該当となり、上限額が下がります。
※5 一年間のうち一般区分または住民税非課税区分であった月の外来の自己負担額の合計額について、14.4万円の上限が設けられています。
- 自治体独自の助成制度
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これまでご紹介した国の介護保険制度における助成制度のほか、各自治体でもさまざまな助成制度が設けられています。利用要件もそれぞれ異なるため、利用できる助成制度がないか、お住まいの市区町村の窓口などに相談しましょう。
- 利用には申請が必要
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各種助成制度を利用するには、市区町村に利用申請を行う必要があります。詳しくは、介護保険の窓口に相談してください。
老人ホームの利用料金が支払えなくなるとどうなる?
手厚い年金が支給されていれば、年金だけでも老人ホームの費用をまかなうことは可能ですが、実際は年金に貯金や収入などを加えてやりくりしているケースがほとんどです。そのため、経済状況や本人の身体状態の変化によって支払いができなくなることがあります。
具体的には、次のようなケースが支払いが滞ってしまう原因になっています。
- 介護度の進行によって支払額が増加したため
- 不動産や投資信託などの金融資産が減少したため
- 自宅の売却が進まず現金化できないため
- 家族からの援助が減った、もしくはなくなったため
入居時には「支払い続けることができるだろう」と考えていても、その状態が入居期間中ずっと続くとは限りません。状況の変化によって、誰もが経済的なピンチに陥る可能性があることを理解しておきましょう。
老人ホームへの支払いが滞った場合
- 保証人に料金が請求される
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老人ホームの入居の契約時には、保証人の同意が求められます。保証人は一般的に配偶者や子などの家族になることが多く、利用者本人が入居費用を支払えなくなった場合は、この保証人に費用が請求されます。
- 猶予期間が設定される
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利用者本人も保証人も支払いができず利用料金を滞納すると、1〜3ヶ月程度の猶予期間が設けられます。この期間に料金の支払いを済ませるか、経済状況に見合った別の老人ホームに転居しなければなりません。なお猶予期間は施設によって異なるため、事前に契約時の契約書や重要事項説明書をチェックしておくことが大切です。
- 強制退去
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猶予期間が経過すると契約解除となり、利用者に対して退去勧告が行われます。それでも施設に入所し続けていると、施設から訴えられることがあります。
支払えなくなった時の対処法
支払いが滞っても即時退去にはなりません。猶予期間の間に、落ち着いて対処法を考えましょう。
施設のスタッフやケアマネジャーに相談する
まずは施設スタッフや担当のケアマネジャーに相談を。滞っている料金の支払いについて相談にのってもらえますし、分割での支払いを施設の管理者に取り合ってくれたりと、さまざまな提案を行なってもらえます。また、ケアマネジャーなら経済状況に見合った別の施設を紹介してくれることもあります。
特別養護老人ホームなどは人気が高いため、転居したくても入居待ちになる可能性があります。そのため、相談は早いほど良いです。支払いができなくなってからではなく、厳しくなってきたと感じたらすぐに相談するようにしましょう。
経済状況に合った老人ホームに転居する
支払いできない理由が一時的なものであれば、分割支払いや猶予期間で解決できるかもしれませんが、今後も支払いの見込みが立たなければ、利用中の老人ホームの退去手続きを行い、別の老人ホームへ転居しなければなりません。
このとき、入居一時金が返却される場合があるので施設に確認しましょう。入居一時金は、一定期間内で毎年分割して家賃などに充てられることになっています。この期間を「償却期間」といい、償却期間中に退去すると一時金が返却されることになっています。このお金を次の老人ホームの初期費用に充てることもできます。
在宅介護を検討する
低価格の老人ホームへの転居も難しい場合は、在宅介護を検討することをおすすめします。介護度が低い段階であれば、適度にデイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用しながら、家族が介護をすることで自宅での生活を続けることができます。その間に資金を貯めておき、介護度が進行したら入所へ、と移行することもできます。
もちろん、家族への負担は大きくなってしまうため、お互いの同意の上、無理のない範囲で行うことが大切です。
生活保護を受ける
年金の支給額が低く、頼れる親族もいない場合の最終手段として、生活保護の受給という選択肢があります。この場合も、生活保護の支給上限額までで入居できる施設を探す必要があります。また、積極的に生活保護受給者を受け入れている施設もあれば入居できない施設もあるため、事前にしっかり確認を。ケアマネジャーのほか、市町村の生活支援窓口やケースワーカーなどに相談すると良いでしょう。
老人ホームの費用の支払いで困らないために
後々、介護費用の支払いで困らないためにはどうすれば良いのでしょうか。いくつかの予防策をご紹介します。
民間の介護保険に加入する
年金や公的な介護保険、助成制度の組み合わせで自己負担額は一定以下に抑えることができます。それでも将来に不安が残る場合は、あらかじめ民間の介護保険に加入しておき、老後資金を準備しておくことも一つの方法です。
リバースモーゲージを利用する
リバースモーゲージは、自宅を担保に金融機関から融資を受けられる高齢者向けの貸付制度で、金融機関だけでなく社会福祉協議会も取り扱っています。家族は自宅に継続して住み続けることができ、借入人が死亡した時に担保となっていた自宅を売却することで借入金を返済する仕組みです。限られた資金を有効に活用できますが、借入金には利息が発生することは念頭に入れておく必要があります。
生活福祉資金貸付制度を利用する
生活福祉資金貸付制度は、低所得者や高齢者、障害者を経済的に支えることを目的とした国の貸付制度です。このうち、高齢者世帯に向けた貸付では、療養または介護を要する65歳以上の高齢者が属する世帯を対象に、介護サービス利用のための資金の貸付を行なっています。連帯保証人を立てる場合は無利子、立てない場合は年率1.5%の金利で生活資金を借りることができます。
マイホーム借上げ制度を利用する
一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)が行なっている制度で、空き家となっているマイホームを借上げてJTIと家主が借家契約を結び、事前に設定した期間でこれを転貸することで賃料収入を得るというものです。リバースモゲージと同様、所有権は保持したまま資金調達できる点がメリット。また、借家契約中は空室であっても賃料が支払われるため、安定した収入を得ることができます。
事前に老後の資金計画を立てておくことが大切
老人ホームに入居すれば、介護度に関わらず食費と住居費は必ず発生します。このことを頭に入れ、老後の資金計画を事前にしっかりと立てておくことが大切です。また、介護費用をふまえて資金計画を立てたとしても、想定外のことが起こり得るのが人生です。支払う費用が大きくなるケースや、あてにしていた収入が減ってしまうケースなど、さまざまなリスクも念頭においた上で、余裕を持った計画を立てましょう。自分で計画を立てるのが難しいと感じたら、ファイナンシャルプランナーなどに相談することをおすすめします。
老後の資金問題は家族にも影響する
介護が必要になると、資金面の問題は本人だけでなく家族にも影響を及ぼします。資金計画を事前に立てておくことはもちろん、家族とも話し合い、経済的に困難な状況に陥った際の対処法などを考えておくことをおすすめします。家族は、経済面だけでなく精神面でも支えてくれる頼もしい存在です。コミュニケーションを普段から密に取り、信頼関係を築いておきましょう。
また、介護保険制度や助成制度について最新の知識をもつことも大切です。制度は度々更新されるため、自分から情報収集をして知識をアップデートし続け、安心できる老後を送りましょう。