相続に備えて行っておきたい不動産の資産整理。その目的と方法、ポイントを解説
不動産の相続は現金の相続と比較してトラブルになりやすいため、生前中の対策がとても大切です(参考:「トラブルになりやすい不動産相続。その理由と対処法」)。その対策の一つとしてぜひ行っておきたいのが「資産整理」です。不動産の資産整理は、所有者が生前中に不動産の情報を整理し、個々の事情に適した方法で売却などの対応を行うことを言います。資産整理を行うことで、相続時のトラブルを未然に防いだり、家族が支払う相続税を軽減できたりします。
不動産の資産整理にはいくつか選択肢があります。そこでここでは、相続前の対策として不動産の資産整理を行う方法やポイントをご紹介します。不動産を保有している方はぜひ参考にしてください。
不動産を資産整理する目的
不動産の資産整理を行う理由は、大きく分けて三つあります。
相続時の税金やトラブル防止対策としての資産整理
不動産を複数所有している場合や価値の高い不動産を所有している場合は、相続税対策を行っておかないと相続時に莫大な相続税が発生する可能性があります。毎年の固定資産税も増え、引き継いだ家族が納税の負担に苦労することになります。相続してから売却して納税資金を確保しようとしても、相続税は原則として申告の期限までに金銭で納めることが義務付けられているため、現金化が間に合わない恐れがあります。
また、不動産は現金とは異なり平等に分割することが難しいため、複数の相続人がいる場合は分配方法で揉めるケースもあります。一方、賃貸経営をしたり自らが住んだりすることができない、資産価値の低い不動産の場合は、誰も相続したがらないという恐れも。だからと言って相続放棄をすると預貯金などその他の資産の相続もできなくなってしまい、大切な家族に財産を引き継ぐことができません。
このような場合に生前に資産整理を行っておくことで、相続する家族の負担を減らすことができます。
投資のための資産整理
投資用に購入した不動産が、購入時よりさらに高い金額で売却できるタイミングや、減価償却期間が終了して不動産所得にかかる所得税や住民税が増えるタイミングでは、投資の出口戦略としての資産整理を行う場合があります。長期保有することも選択肢の一つですが、建物は時間が経つほど老朽化して資産価値が下落するリスクが高まります。適切なタイミングで売却をすることで、次の投資に資産をあてることができ、より良い資産形成につながります。
ローンの返済のための資産整理
想定外の事態によって住宅ローンの支払いが困難となり、やむを得ず資産整理をするケースもあります。銀行などの債権者に相談すると、返済計画の見直しや売却を回避するためのアドバイスをもらえますが、それでも返済が難しいと判断すれば、両者の合意の上で不動産を売却し、その資金で住宅ローンを完済することになります。これを「任意売却」と言います。任意売却の場合は、ある程度希望条件を出すことができるため、仲介業者を通した場合と同程度の金額で売却できます。
しかし、任意売却でもローンの完済が難しい場合や、金融機関に相談なく支払いの滞納が続く場合は、金融機関によって不動産が差押えられ、競売の申し立てが行われます。この場合は債権者の意思とは関係なく、法的な手続きに従って強制的に執行されます。競売になると希望条件を出すことはできず、相場の6〜8割程度の金額で落札されるため、競売後も住宅ローンを完済しきれない場合もあります。
不動産の資産整理の方法とポイント
ここでは、相続時の節税対策やトラブル防止対策として不動産を資産整理する方法をご紹介します。
- 不動産の権利情報を把握する
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不動産には、「所有権」「貸借権」「抵当権」などの権利があります。まずは自分が管理している不動産の権利がどれに当たるかを正確に把握しておきましょう。
所有権があると思い込んでいた建物が、相続時になって貸借権しか保有していないことが判明するケースもあります。所有権:土地や建物を自由に使用・収益・処分できる権利
借地権:借りた土地・建物を、使用・収益する権利不動産の権利関係は、法務局で登記簿謄本を取得することで調べることができます。登記簿謄本は、600円程度の手数料で、誰でも取得することができます。
- 財産リストを作成する
- 資産整理の方法を検討する
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不動産の資産整理には、いくつかの方法があります。資産価値や活用方法によってどれが適しているか、メリット・デメリットもふまえて検討しましょう。
- a.売却する
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[ 売却のメリット ]
不動産を売却して現金化しておくことで、固定資産税や維持管理費が発生しなくなります。相続の際にも複数の相続人に資産を平等に分配することができます。また、負債がある場合は売却益をその返済にあてることで、マイナスの遺産を相続人に負わせることがなくなります。[ 売却のデメリット ]
不動産仲介業者に売却を依頼すると、一定の仲介手数料が発生します。例えば、4000万円の建物を売却した場合は、100万円以上の仲介手数料が発生します。また、売却する建物に住んでいる場合は引っ越しが必要になります。
- b.リースバックを利用する
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リースバックとは、所有権を持つ不動産を不動産会社や投資家に売却し、売却先と賃貸借契約を結んで同じ物件に住み続けるという仕組みです。相続する建物に家族が住んでいる場合に便利な方法です。
[ リースバックのメリット ]
家族がこれまでと同じ家に住むことができるため、引っ越しが不要です。売却によってまとまった資金を得ることができる上、固定資産税や都市計画税、修繕費などの支払いが不要になります。また、賃貸契約期間の途中で解約することもできますし、再売買契約を締結することで不動産を買い戻すこともできます。[ リースバックのデメリット ]
リースバックでの売却価格は、相場の60〜90%と通常の売買契約よりも安め。加えて、家賃は売却価格の7〜13%程度で設定されるため、家賃が相場より高くなる場合もあります。また、賃貸借期間は無期限ではなく、2年以内の「定期賃貸借契約」となるケースがほとんどです。長く住み続けたいのであれば、別の方法を考えた方が良いでしょう。
- c.オーナーチェンジする
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投資用の不動産の資産整理で有効な方法が「オーナーチェンジ」です。所有者を変更することで、入居者がいる状態でも不動産を売却することができます。
[ オーナーチェンジのメリット ]
早く現金化したい場合や入居者の家賃滞納に困っている場合、このまま資産として持ち続けても期待するような収益が見込めない場合は、オーナーチェンジで不動産を手放すことを検討してもよいでしょう。[ オーナーチェンジのデメリット ]
売却価格が相場よりも安くなることが多いため、購入時の金額や現在の収益などを考慮した上で決断しましょう。
- d.節税対策を行って保有し続ける
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[ 保有のメリット ]
保有している不動産に家族が住んでいる場合や、今後物件価値の向上が期待できる場合、また賃貸物件として十分な収益を見込める場合は、保有を続けて家族に相続する方がメリットが大きいと言えます。賃貸経営用の物件の場合は、リノベーション等を行うことで、経費の支出によって節税対策ができると同時に、物件の価値が上がることで家賃アップにもつながるかもしれません。[ 保有のデメリット ]
不動産の価値が高いほど相続税が高額になるため、相続税対策が必須です。「事前にやっておきたい相続税の節税対策と納税資金の確保」もぜひ参考にしてください。
- 資産整理の専門家に相談する
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不動産の資産整理には、相続や不動産に関する法律・税金の知識が不可欠です。ご自身で判断するより、専門家に相談し、よりメリットの大きくなる方法で資産整理を行いましょう。不動産を売却する場合、相談先としてまず思い浮かぶのは不動産仲介業者が多いかと思いますが、相続や資産整理に関する法律・税金の専門的な知識は、不動産仲介業者の方でも難しい内容があります。
行いたいことが不動産の売却であっても、税理士や弁護士、司法書士などにも相談することをおすすめします。税理士:資金移動表の作成や確定申告など、税務上の手続きを本人に代わって行ってくれます。
司法書士:抵当権抹消登記や相続登記など、不動産を相続する際の手続きを代行してくれます。
弁護士:不動産の相続のトラブル解決や回避をしてくれます。専門家に相談する際は、不動産だけでなく資産トータルで節税対策ができるように、あらかじめ全ての資産を把握しておき、情報を整理した上で相談するとスムーズです。その点でも、前項の「財産リストの作成」は非常に役立ちます。
早い段階から資産整理を検討しましょう
建物の価値は時間の経過と共に下がっていくもの。不動産の資産整理を検討し始めたら、早めに着手しましょう。売却や保有などを決断する際には、一人で決めず、相続人となる家族の意向を尊重することも大切です。よく話し合って、双方が納得する方法で資産整理を行うことをおすすめします。
また、必要に応じて専門家などにも相談を。節税対策やトラブル防止につながるだけでなく、不動産の新しい活用方法が見つかるかもしれません。大切な資産の価値を最大限次の世代に引き継げるように、ぜひ検討をしてみてください。