介護保険サービスの基礎知識。豊かで自分らしいセカンドライフを過ごすために知っておきたい制度の概要
自分や家族に介護が必要になったときに、多くの人が利用するのが介護保険サービスです。現在の介護保険サービスは非常に種類が多く、内容も充実していて、予防から日常生活の介助、施設入居まで、心身の状態や希望に応じてさまざまに使い分けることができます。
いざという時に、その違いや利用条件などを理解し、自分や家族に適したサービスを選択するために、まずは「介護保険サービス」について知っておくことが大切です。ここでは、介護保険サービスの仕組みや利用金額、サービスを利用するための要支援・要介護認定の受け方など、介護保険サービスに関する基礎知識について分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、将来を考えるヒントにしてください。
介護保険サービスとは
介護保険制度は、高齢者の生活を支えるために2000年に開始されました。高齢化が著しく進行する中、時代に合ったサービスを提供するために、制度の内容は3年ごとに見直しが行われており、これまでも大きな改正が何度も行われてきました。
そして、介護保険制度によって「要支援・要介護認定」を受けた高齢者や障害者など、介護を必要とする人が受けられるサービスのことを「介護保険サービス」と言います。訪問介護、通所介護、施設介護など、さまざまな種類の介護サービスがあります。
介護保険を支える保険料
介護保険制度を支えているのは国民自身。40歳以上になると、介護保険に加入して保険料を納めることが義務付けられています。介護が必要になった際には、納めた保険料や税金をもとに、原則として1割負担、所得によっては2〜3割の自己負担で介護サービスを受けることができます。
65歳以上になると、年金からの天引きという形で市区町村によって保険料が徴収されます。介護施設の整備状況や要介護者の人数などの地域の実情をふまえ、各自治体ごとに金額が定められます。
なお低所得者の場合は、保険料の軽減措置などが行われています。
介護保険サービスを利用できる人
介護保険サービスを利用できるのは、次のような人です。
- 介護保険料を支払っている第1号被保険者(65歳以上)もしくは第2号被保険者(40〜64歳)
- 居住する市区町村から要支援・要介護状態の認定を受けた人
第1号被保険者が要支援・要介護認定を受けた場合は、疾病を問わず介護保険サービスを利用することができます。一方、第2号被保険者は指定された16の「特定疾病」の罹患によって介護認定を受けた場合に介護保険サービスを利用することができます。
16の特定疾病
- 末期がん
- 慢性関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靭帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
要支援・要介護認定を受けるための手続き
介護保険サービスを受けるには、あらかじめ「要支援・要介護認定」を受ける必要があり、これには申請手続きが必要です。
申請にあたって必要となる書類
- 介護保険要介護・要支援認定申請書
-
申請書は市区町村の申請窓口でもらえるほか、自治体のホームページからダウンロードできます。申請書には、主治医の氏名・住所等の記入を行います。
- 介護保険被保険者証
-
65歳以上になると自宅に郵送される「介護保険被保険者証」を提出します。40〜64歳の場合は健康保険被保険者証で代用し、要支援・要介護認定を受けた後に発行されます。
申請の流れ
申請から結果の通知までは約1ヶ月かかります。
- 認定の申請
-
お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターに申請書と必要書類を提出します。この時、提出して手元になくなった介護保険被保険者証の代わりに、「介護保険資格者証」が発行されます。申請の手続きは原則として本人が行い、本人が申請できない場合は家族や成年後見人、担当のケアマネージャーなどが代行で申請を行うことも可能です。
- 訪問調査
-
市区町村から任命された担当者(認定調査員)やケアマネージャー(介護支援専門員)が訪問調査に訪れ、本人の心身の状態を確認したり、本人や家族からの聞き取り調査を行います。、所要時間は1時間程度です。
- 主治医による意見書の作成
-
訪問調査結果をもとに、主治医が意見書を作成します。主治医がいない場合は、市区町村が指定する医師が意見書を作成します。
- 一次判定
-
訪問調査や主治医による意見書の内容から一部の項目はコンピューターに入力され、コンピューターによって介護にかかると想定される時間が算出され、この時間をもとに要支援1〜要介護5に判定されます。
- 二次判定
-
一次判定の結果と主治医の意見書をもとに、医師や福祉の専門家による介護認定審査会による判定が行われます。その後、認定結果通知書とともに、認定結果が記載された被保険者証が返還されます。
要支援・要介護認定の区分と受けられるサービス
要支援・要介護認定は、「非該当」「要支援1・2」「要介護1〜5」の8区分あり、区分によって受けられる介護サービスは異なります。
要支援・要介護の違い
非該当・要支援・要介護については、厚生労働省によって次のように定義されています。
・自立(非該当)
歩行や起き上がりなどの日常生活上の基本的動作を自分で行うことが可能であり、かつ、薬の内服、電話の利用などの手段的日常生活動作を行う能力もある状態。
・要支援状態
日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態。
・要介護状態
日常生活上の基本的動作についても、自分で行うことが困難であり、何らかの介護を要する状態。
日常生活動作と手段的日常生活動作とは
「日常生活動作」とは、食事や排泄など日常生活を送る上で必要な動作のこと、「手段的日常生活動作」とは、家事全般や金銭管理など日常生活動作よりも高度な動作を指します。
要支援・要介護の中の介護度の違いについては次のように定められています。
要支援・要介護 |
状態 |
要支援1 | 「食事・排泄・入浴」などの日常生活動作は一人で行えるが、「買い物・金銭管理・内服薬管理・電話利用」などの手段的日常生活動作のうちいずれか一つ以上に見守りや介助が必要な状態。 |
要支援2 | 要支援1の状態に加え、下肢筋力の低下により歩行状態が不安定になり、今後、日常生活において介護が必要になる可能性がある状態。 |
要介護1 | 要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、どれか一つ以上に介助が必要で、基本的な日常生活においても一部に介助が必要となる状態。 |
要介護2 | 要介護1の状態に加え、日常生活動作や手段的日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態。 |
要介護3 | 自立歩行が困難で杖や歩行器、車椅子などを利用しており、日常生活動作や手段的日常生活動作を行う能力が著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態。 |
要介護4 | 要介護3の状態からさらに動作能力が低下し、会話は行えるものの、日常生活動作や手段的日常生活動作において介護なしに一人で日常生活を営むことが困難な状態。 |
要介護5 |
要介護4の状態からさらに動作能力が低下し、ほとんど寝たきりで意思疎通が困難かつ食事を自分で取ることができない状態。日常生活の全てを介護なしに送ることが困難な状態。 |
受けられるサービス
要支援1・2と認定されると介護保険制度に基づく「介護予防サービス」を、要介護1〜5と認定されると介護保険制度に基づく「介護サービス」を利用することができます。また、非該当と認定された方でも、市区町村が実施する日常生活支援総合事業による介護予防サービスを利用できます。
[表] 要支援・要介護で受けられる介護保険サービス
介護保険サービス | 要支援1~2 |
要介護1~5 |
訪問介護(ホームヘルプ) |
〇 |
〇 |
訪問入浴 |
〇 |
〇 |
訪問看護 |
〇 |
〇 |
訪問リハビリ |
〇 |
〇 |
通所リハビリ(デイケア) |
〇 |
〇 |
認知症対応型通所介護 |
〇 |
〇 |
小規模多機能型居宅介護 |
〇 |
〇 |
短期入所生活介護(ショートステイ) |
〇 |
〇 |
短期入所療養介護 |
〇 |
〇 |
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム等) |
〇 |
〇 |
福祉用具貸与 |
〇 |
〇 |
特定福祉用具販売 |
〇 |
〇 |
認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | 要支援2のみ |
〇 |
夜間対応型訪問介護 |
〇 |
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
〇 |
|
通所介護(デイサービス) |
〇 |
|
地域密着型通所介護 |
〇 |
|
療養通所介護 |
〇 |
|
看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス) |
〇 |
|
介護老人保健施設(老健) |
〇 |
|
介護療養型医療施設 |
〇 |
|
介護医療院 |
〇 |
|
地域密着型特定施設入居者生活介護 |
〇 |
|
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 要介護3~5のみ | |
地域密着型特別養護老人ホーム | 要介護3~5のみ |
介護保険サービスの利用方法
介護保険サービスを利用する方法は、要支援認定を受けた人と要介護認定を受けた人で異なります。
要支援認定を受けた人
本人がお住まいの地域の地域包括支援センターに連絡し、職員と相談しながら「介護予防ケアプラン」を作成します。プラン内容に沿った介護予防サービスの利用が可能になります。
要介護認定を受けた人
担当のケアマネージャーと相談をしながら「ケアプラン(介護サービス計画書)」を作成することで、ケアプランに沿った介護サービスを利用できるようになります。ケアマネージャーの決定方法は、利用するサービスが「居宅」か「施設」かで異なります。
[ 居宅サービスを利用する場合 ]
訪問介護などの居宅サービスを受ける場合は、「居宅介護支援事業所」に連絡し、担当のケアマネージャーを決定します。その後、ケアマネージャーと相談しながら、介護に関する希望などを伝え、相談しながらケアプランを作成します。
[ 施設サービスを利用する場合 ]
特別養護老人ホームなど長期的に施設に入所する場合やショートステイなどで短期的に施設に入所するサービスを利用する場合は、入居を希望する事業所に申し込みを行い、その施設に所属するケアマネージャーと相談しながらケアプランを作成します。
介護保険の利用上限額と自己負担額
介護保険サービスは原則として1割(一定以上所得者の場合は2割または3割)の自己負担で利用できますが、一ヶ月に利用できる介護保険の利用上限額が定められており、これを超えた分については全額自己負担となります。また、利用上限額は介護度に応じて異なり、介護度が高いほど金額も高くなります。
次の表は、居宅サービスを利用する場合の1ヶ月あたりの利用上限額です。
[表] 居宅サービスを利用する場合の利用上限額と自己負担額
区分 | 上限額 | 自己負担(1割) | 自己負担(2割) | 自己負担(3割) |
要支援1 | 50,320円 | 5,032円 | 10,064円 | 15,096円 |
要支援2 | 105,310円 | 10,531円 | 21,062円 | 31,593円 |
要介護1 | 167,650円 | 16,765円 | 33,530円 | 50,295円 |
要介護2 | 197,050円 | 19,705円 | 39,410円 | 59,115円 |
要介護3 | 270,480円 | 27,048円 | 54,096円 | 81,144円 |
要介護4 | 309,380円 | 30,938円 | 61,876円 | 92,814円 |
要介護5 | 362,170円 | 36,217円 | 72,434円 | 108,651円 |
負担限度額認定制度による負担軽減措置
基本的に自己負担額は1割(一定以上所得者の場合は2割または3割)で済むとはいえ、介護度が重くなるにつれて介護にかかる費用は高くなります。本人の年金や貯金だけで支払うことができず、その家族が負担を負わなければならないことも少なくはありません。そこで国では、収入が少なく毎月の介護サービス利用料の支払いが困難な家庭の負担を軽減するための「負担限度額認定制度」を設けています。
この制度は、施設ービスを利用する際の食費や居住費に支払い限度額が設定され、それを超える分については介護保険制度から支払われる仕組みです。ただし居宅サービスには利用できないため、注意しましょう。
負担限度額認定制度は、本人がお住まいの市区町村の窓口で申請を行い、認定証を発行してもらうことで利用できます。
自分らしいセカンドライフを送るために
少子高齢化に伴い、介護制度を支える現役世代は減少し、介護保険サービスも今後は縮小してくと考えられています。そのため、これからは「介護予防」の考え方も非常に大切です。要介護にならないために、要支援の状態で予防サービスを受けたり、要支援にならないために自立の状態から市町村の予防サービスに参加したりと、自分自身や家族と一緒に積極的に取り組むことで要介護状態の期間を短くすることができます。介護保険制度を知ると同時に、お住まいの地域ではどのような予防事業が展開されているのか、この機会に調べてみてはいかがでしょうか。また将来に向けて、どのように生きていきたいか、介護が必要になった際にはどのようなサービスを受けたいか、ぜひ一度じっくりと自分や家族の希望と向き合ってみてください。