事前にやっておきたい相続税の節税対策と納税資金の確保
「相続税の基本」でもご説明したように、亡くなった方から一定額以上の財産を相続すると相続税がかかります。税率は最高で55%と高く、場合によっては「納税資金が足りない」という事態に陥るケースも珍しくありません。しかし、相続が始まる前にあらかじめ節税対策や納税資金の確保に取り組んでおくことで、その負担を大きく軽減することができます。資産をお持ちの方、特に金融資産が少なく、たくさんの不動産をお持ちの方は、早い段階から対策を施しておくことが大切です。
ここでは、相続税で陥りやすい問題や、生前中から行っておきたい節税対策についてご説明します。相続人が後々納税で困ることがないように、ぜひ知識を入れておきましょう。
相続税で問題となりやすいケース
相続税は、相続を開始してから10ヶ月以内に申告・納税しなければなりません。亡くなってから葬儀や各種手続きを済ませ、相続財産を確定させ、遺産分割協議を行い・・・やるべきことが山積みです。そのような状況の中で、次のような問題が起こる可能性があります。
- 金融資産が少ないため、納税資金が不足する
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相続財産のうち、不動産が多い一方で金融資産の割合が少ないと、多額の相続税が発生するのに現金が手元にないという状態になり、納税資金が不足する可能性があります。
相続人は、自身の金融資産から納付するか銀行借入を行うかを短期間で判断しなければならず、経済的・心理的負担が大きくなります。また、手持ち資金が減ることで生活への不安が増し、相続人のライフプランにも大きな影響を及ぼします。
- 預貯金が引き出せない
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金融資産があったとしても、それが金融機関の預貯金である場合には注意が必要です。故人の預金口座は、金融機関が口座名義人の死亡を確認すると凍結され、遺産分割協議が終わるまでは自由に引き出すことができなくなります。そのため、遺産分割がスムーズに進まなかった場合はいつまで経っても預貯金を引き出せず、そのまま申告・納税期間を迎えてしまう可能性もあります。
- 預貯金の仮払い制度
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遺産分割協議が成立するまでに、一定額を引き出すことができる「預貯金の仮払い制度」というものがあります。ただしこれは、故人の葬儀費用や相続人の生活費のために設けられた制度であり、これだけで納税資金をまかなうには不十分なことが多いです。
- 利子税が加算され、さらに負担が増える
- 相続人間のトラブルに発展する
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相続税の納税は、相続人全員の責任です。一人でも納税資金不足で納税できない場合は相続人全員で支払う義務があり、相続人間のトラブルにも発展しかねません。
相続前に行っておきたい納税資金の確保
いざ相続となってから納税資金を用意するのは難しいものです。相続が発生する前に、何年かかけて準備をしておくのがベスト。相続税のおおよその金額を把握しておき、金融資産の割合を増やすことで納税資金を確保できます。
- 不動産や貴金属を売却し、現金化しておく
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不動産や貴金属、宝石などは、「残したいもの」「売ってもよいもの」に分け、計画的に現金化しておきましょう。相続税の納付期限前に慌てて売却しようとすると、希望の条件で売却できないケースもあります。また、不動産を相続後の一定期間中に売却すると特例が受けれないケースもあります。
- 生命保険を活用する
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生命保険(死亡保険金)は本来の相続財産ではありません。また非課税枠の範囲であれば、相続税がかかりません。財産を相続させたい人を死亡保険金の受取人に指定することで、他の相続人の同意がなくても、相続開始後すぐに死亡保険金を受け取ることができます。
- 経営者の場合、死亡退職金や弔慰金支給規定を整備しておく
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オーナー経営者の後継者が、死亡退職金や弔慰金を受け取るには、会社の支給規定で後継者が受取人に指定されている必要があります。あらかじめ規定を整備しておきましょう。
- 遺言書の中で必要資金を配分しておく
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遺言書を作成する際に、相続する財産に加えて必要となる納税資金相当の金融資産を配分しておくことで納税資金不足に陥る心配がなくなります。ただし、「遺留分」(「相続の基本」の「法定相続とは異なる「遺留分」について 」)への配慮は必要なので、念頭に入れておきましょう。
相続前に行っておきたい相続税対策
納税資金の確保と同時に行っておきたいのが、相続税の節税対策。大切な資産をできる限り相続人に引き継ぐためにも、メリットが大きくなる方法を取りましょう。
- 生前贈与で財産を計画的に移転する
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生前贈与の場合は相続税ではなく贈与税がかかりますが、年間110万円までは非課税です。長い期間をかけてコツコツと生前贈与を続けることで、相続税を節税できます。ただし、亡くなる直前の贈与は相続財産に加算され、相続税がかかります。詳しくは「生前贈与と贈与税の基本。「暦年課税」と「相続時精算課税」とは?」を参照してください。
配当金や家賃収入など、定期的に収入が発生する財産があれば、亡くなってからではなく生前贈与をすることで相続人の収入を増やし、納税資金を確保することができます。同時に、収入を分散することで被相続人の所得税が軽減されるという効果もあります。
- 相続時精算課税制度を活用する
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生前贈与に加えて、今後値上がりが期待できる財産は、相続時精算課税制度の選択を考える一要素になります。贈与税が2,500万円まで非課税になり、それを超えた分については一律20%の税率で贈与税が課税される制度です。詳しくは「節税対策に有効な相続時精算課税制度のあらまし。そのメリットと注意点」をご参照ください。
- 相続税の配偶者控除を活用する
- 賃貸物件を建築する
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不動産を相続した際は、一定のルールに基づいて相続税評価額が算出され、その金額に応じて相続税が課されます。この相続税評価額は、一般的に時価の7〜8割程度になります。評価額に一定のアローワンスを設け、不動産を実際に売買した際に、時価の変動によって相続時よりも低い金額で売却する可能性があるため、納税者にとって不利にならないように配慮されているのです。
さらに、土地に賃貸用建物を建築した場合は、更地の場合に比べて相続税評価額を引き下げることができます。これは、賃貸契約では借主の権利が尊重され、貸主の建物に対する権利が自身の土地や建物と比較して制限されているためです。
また、建築時にローンを組むことで負の財産が生まれ、相続財産から負債額を差し引くことができます。また賃貸で得た収益を納税資金として確保しておくこともできます。
- 収益用不動産を購入する
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金融資産でマンションなどを収益物件として購入した場合も、「4」の賃貸物件を建築した場合と同様、不動産評価額が抑えられ、同時に収益を納税資金として確保できます。
- 小規模宅地等の特例を活用する
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生活や事業の継続に必要な宅地を相続した場合は、相続税評価額が最大80%減額されます。
宅地等の種類 限度面積 減額割合 特定居住用宅地 330㎡ 80% 特定事業用宅地 400㎡ 80% 特定同族会社事業用宅地 400㎡ 80% 貸付事業用宅地 200㎡ 50%
相続財産の総額を把握して、相続に備えましょう
実際に相続税の納税義務が発生する人は、全体から見れば10%以下と少ないのが現状です。つまり、ほとんどの人が基礎控除内に収まっているということです。だからと言って、「我が家は大丈夫」と思わず、まずは相続税がかかる財産がどれくらいあるかを正確に把握しておくことは大切です。
節税対策は、大切な人に負担をかけることなく、しっかりと財産を引き継ぐためにも重要。「何が課税対象となる財産なのか分からない」という方は、早めに税理士などの専門家に相談しておきましょう。